海をあげる

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海をあげる
上間 陽子 著
筑摩書房
2020

出版社からのコメント

痛みを抱えて生きるとは、こういうことなのか。言葉に表せない苦しみを聞きとるには、こんなにも力がいるのか。
生きていることが面倒くさい日々が私にあったことは、若い女の子の調査の仕事をしていると、どこかで役に立っているように思う。(……)
あれからだいぶ時間がたった。新しい音楽はまだこない。それでもインタビューの帰り道、女の子たちの声は音楽のようなものだと私は思う。だからいま私は、やっぱり新しい音楽を聞いている。
悲しみのようなものはたぶん、生きているかぎり消えない。それでもだいぶ小さな傷になって私になじみ、私はひとの言葉を聞くことを仕事にした。(「美味しいごはん」より)







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 なに、とか、誰、とか、どんな、とか、なにも知らずにこういう一冊に出会えるのは幸運だと思う。と、紹介文を書こうとするその矛盾に手が止まりそうになるが、書かなくてはという思いに突き動かされて書かれた本にとってはそんなの呑気な戯言だろう。もっと多くの人へ。誰か一人の胸の奥へ。本を売ると決めたのだから、こうやって紹介文を書いている。
 鮮やかな表紙の青を見て、ステレオタイプの沖縄の青い美しい海を連想するかもしれない。けれどそこに書かれているのは、普段メディアに取り上げられることのない、沖縄の、そして本土の社会や経済のシステムに翻弄され、見過ごされ、時に自己責任という言葉で片付けられてしまう理不尽な暴力に耐え続けている、もしくは耐えられなくなった人たちの声だ。2018年末、辺野古沖へ土砂が投入されてゆく悲痛な叫び声に、自分の罪を突き付けられ逃げ出したくなる。
 読んだとて、ごめんなさいと謝ることしかできず、今は目の前のちいさな命の一挙一動についてゆくのに精一杯だ。それでも読んでしまったのは、私に聞く準備ができたからだろうか。なにもできないことに打ちのめされながら読み続ける、私にはまたそんな日々が帰ってくるのだろうか。顔をあげて、本を手渡して、私が受け取った海を、あなたにあげなくてはならない。
(2021.3.29)

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